-
DDBJ メールマガジン No.15(2004年7月30日発行)阿部 貴志
国立遺伝学研究所 データベース運用開発研究室 助手
-
「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり」
平家物語であまりにも有名な一文である。
栄枯盛衰,形あるものは壊れる…,万物は“無常”だ。頭では理解していても,実際にその喪失を目にすると,誰しも心を痛めるのではないだろうか。3年前,タリバン政権によるバーミヤンの石仏破壊という,センセーショナルな映像が各TV局で流された。ただ一つの政権の目的のために,いとも簡単に歴史的遺産が破壊されていく様に,私は憤りとやるせなさで一杯になったものである。一方で,高松塚古墳の「白虎」の壁画のように,保存・整備にかかわってきた専門家の努力が微生物や自然環境の力に対して劣勢な例もある。 (それから,スケールは小さくなるが,お馴染みの某お宝鑑定TV番組を見ていると,欠けたり,カビが生えていたりといった保存状態の悪い“名品”が出てくる。その度に私は自分のお宝でもないのに,つい溜息をついてしまう。)これだけ科学が発達した現代でも,やはり諸行無常なのであろうか?なんと,近年のソフト・ハード両面に見られるコンピュータ技術の発達を受けて,“歴史的遺産の電子化”が始まりつつあるという。金閣寺のような建造物から,茶器のような小さなものまで,3次元でデータを取得してデータベースに格納し,デジタル情報として半永久的なアーカイブを作っていこうという努力である。学問的意義の大きさはもちろんの事,これにより,後世に歴史を伝えるという我々人類の使命を,より完全な形で果たす事が出来るのである。この有用性は計り知れない。
ここ DDBJ では,塩基配列とそのアノテーションといった生物情報をデータベース化し,管理している。これら生物情報も立派な“歴史的遺産”となると,私は思っている。絶滅の恐れのある生物種はいうまでもなく,研究者が苦労して開発した突然変異体は常に散逸する恐れが高い。突然変異体の形態の3次元デジタル像をそのゲノム情報とともに保存していくことは,歴史的に大きな意義があると思う。現在の DDBJ の情報資源は,産業上有用な微生物の探索研究や,遺伝子の発現制御研究など,科学的研究に使われる事が多いが,実は,多様な生物をミクロな視点から後世に伝えていくという悠久の夢を紡いでもいるのだ。
