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DDBJ メールマガジン No.17(2004年12月1日発行)鈴木 善幸
国立遺伝学研究所 遺伝情報分析研究室 助手
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曲がりなりにも医師免許と少なからぬ良心を持っているつもりである者として,自分のやっていることがどうにかして病気の治療なり予防なりに役立ちはしないかという考えはある。 というか最近そういう考えを少しだけ持つようになった。 多分齢のせいだ。 私は若い頃の紆余曲折の後,分子進化学という分野に身を置かせて頂いて塩基配列やアミノ酸配列から有用な情報を取り出すべく悪戦苦闘の日々を送っている。 巷で言う所の bioinformatics の一端である。 最初のうちはとにかくひたすら面白くて,何を読んでも何をやってもただただ感動していた。 しかしながら時間が経つにつれてだんだんとちっとやそっとのことでは驚かなくなり,果ては自分は一体何がしたかったのかとまで考えるようになってしまった。 そして何と結局は当の昔に興味を失っていたはずの医学に少しでも役に立ちたいなどと考えるようにまでなってしまったのである。 といっても少しだけであるが。
そんなわけで,自分が知っている限りの bioinformatics のうちで病気の治療や予防に繋がりそうなものが一体どれだけあるのだろうか,そしてそういう研究を集めて medicoinformatics なんて名前にでもして本でも書こうかしらなどと時々考えてみたりする。 さては誰か同じようなことを考えてるんじゃないかと Yahoo で検索してみると,どうやら medicoinformatics という言葉はないらしい。 しめしめ,英辞郎にもない。 じゃあ日本語訳は医療情報学?とか思ってもう一度検索してみると,何とヒットするではないか。 それどころか学会まである。 ここまでか。 英語表記は medical informatics あるいは medinformatics というらしい。 なるほど確かに medicoinformatics より medinformatics の方が格好いい。 でもよく読むとこの medinformatics なるものはどうやら私が考えているようないわゆる我々が想像する bioinformatics の一部といった極めて度量の狭いものではなく,電子カルテだの遠隔医療だのといったものまで含んだ途轍もなくスケールの大きなもののようである。 やや残したか。 でもまあ例え自分が考える medicoinformatics が medinformatics に含まれていたとしてもその部分だけ medicoinformatics だと言い張ればいいか。
何気に medicoinformatics は生き残ったとしよう。 じゃあその中身は何だっけ? それは bioinformatics で医学に役立ちそうなもの。 無い頭で今まで考えて行き着いた先は,まず病原性ウイルスの分子進化学的研究によって何かワクチンの開発に結びつくような知見が得られるんじゃないかということ。 それから SNP なんかの集団遺伝学的解析で疾患感受性遺伝子を同定することによって病気の治療法開発に役立てられるんじゃないかということ。 まで。 あとはない。 恐らくこれだけの事でも本にしたら相当なものが出来上がるには違いない。 でも自分がやっていることが医学にこれだけしか役立たないのかと思うと何故だか微妙に嫌だし,もっと役に立つことがある筈だという気持ちが常に自分を支配して追い詰めている。 苦しい。 といってもやっぱり少しだけなのだが。
そんなことを時々考えている。
