DDBJ スタッフコラム7 「真空管1本とPC1個と細胞1個」

DDBJ メールマガジン No.18(2005年1月31日発行)

斎藤 成也
国立遺伝学研究所 集団遺伝研究部門 教授
1946年に米国ペンシルベニア大学で開発されたENIAC は,電子計算機の草分けだった。 当時まだ半導体は発明されておらず,17468本の真空管を使っていた(詳細は,ウィキペディアを参照されたい)。 このため,真空管が故障するたびに,計算が途中で終わってしまったという。 というこの文章を書き終わってしばらくしたら,文章作成に使っていたPCの電源が突然切れてしまい,また立ち上げるという羽目になってしまった。

それはともかく,現在では,真空管1本は,超巨大PCクラスターのPC1個に相当するだろう。 真空管を知らない世代の方もいると思うので,簡単に説明しておくと,ガラスで作った管の内部の空気を大部分とりさって,真空に近い状態にしてあるのが,「真空管」という名前の由来である。 そこには,単純なオン・オフ回路があり,簡単に言えば真空管1本は,半導体1個に対応する。 現在使われている典型的なパソコン(PC)のCPU(Central Processing Unit)1個に,どれだけの数の半導体が使われているのか,よく知らないが,おそらく軽く100万個を越えるのではなかろうか。

真空管と違って,パソコンは1台だけで立派なコンピュータである。 現在の地球上には,おそらく億単位の台数のパソコンが存在するだろう。 このように身近なものになったので,計算速度を増加させるために,これらのパソコンをたくさんつなげて分散処理しようという発想が生じるのは,当然だろう。 これがPCクラスターである。

計算機ではないが,私は中学生のころスタートレック(当時の日本のテレビでは「宇宙大作戦」という名前だった)のファンだったので,あのシリーズからヒントを得て,手の平に乗るような小さな発電機というか,エネルギー発生装置が無数にちりばめられているような宇宙船を夢見たことがある。

このような傾向の人間にとって,PCクラスターの巨大化は,コンピュータ技術の当然の方向である。 実際,私の研究室では,dualCPU のPC16台と15台からなる2セットのPCクラスターを導入して,比較ゲノム解析などに用いている。 ちなみに,これらPCクラスターのニックネームは,thinker16 とmeditator15で ある。

国立遺伝学研究所の電子計算機棟には,64台のPCクラスターが2セットあるほか,もっと高級なサーバークラスのコンピュータを128台連ねたものも使われている。 こちらも,いろいろなニックネームがあるが,それらの紹介は,これらを管理しているグループの人にまかせることにして,PCクラスターについてもう少し話を進めよう。

2個のCPUを1台のパソコンに搭載したdual PC は,現在一般的なものになっているが,普通の研究者ひとりひとりが,ちょっと複雑なソフトウェアや膨大なデータ・文書ファイルを扱う傾向はますます強まってゆくと思うので,個人で多数のPCを使うことが一般化すると考えられる。 また,大規模なシミュレーションには,巨大な計算パワーが必須なので,このような研究分野には数万,数十万個のCPUをつなげたPCクラスターがいずれ登場するだろう。

我々多細胞生物は,名称からもわかるとおり,多数の細胞から成り立っている。 細胞は自立しているという点で,1個のPCと似ているが,ちゃんと分裂して2個になることは,現在のPCにはできない。 そこで私は以下のようなシステムを夢想している。 さすがに今のPCに自己複製能力を求めることは不可能だが,少なくとも,故障したり,ウイルスに感染したりしたら,それを自動的にどこかのセンターに連絡するシステムの開発は可能だろう。 もちろん,あるCPUが動かなくなったら,それ自身が通報することはできないから,CPUが常時相互監視している必要がある。

故障なり,なんなりの問題が生じたことがわかったら,利用者である我々の手をわずらわせることなく,新しいCPUが配送される。 さらに,これらCPUがわれわれの研究室にある必要はないので,大学や研究所など,それぞれの研究単位でCPU格納室を用意し,各自の部屋からそれらにつなげばよい。 このような集中システムであれば,故障したり,あるいは利用者がもっとCPU数を増加させたいときに,利用者が意識するしないにかかわらず,CPUが工場から届けられ,半自動的に交換あるいは追加される,ということは楽だろう。 また多数のCPUが集中していることにより,それらをイントラネットでつなげてグリッドシステムとして使うことも容易だろう。

安易な解決策ではあるが,既存の技術を使うことができるので,これによってCPUの増殖を比較的簡単に実現することができると思うのだが。 もちろん,遠い将来にはCPUの本当の意味での「自己複製能力」が期待される。 ただし,現在の材料では無理だろう。 人工の「CPU細胞」のようなものの開発が必要だ。 たとえば,超高速パラレル計算を常時行なっていると言われている,哺乳類の小脳のような細胞群を自由に細胞培養することができれば,それらを使うことができる時代が来るかもしれない。

This entry was posted in Mail Magagin and tagged . Bookmark the permalink.

Comments are closed.