生物進化の研究は,19世紀に活躍した英国のチャールズ・ダーウィンを中心として確立し,その後現在まで急速に発展しています。しかし,20世紀前半までは,もっぱら化石や現生生物の形態を比較することが研究の中心でした。1960年代になって,遺伝子DNAの情報を直接体現するタンパク質のアミノ酸配列を比較できるようになり,1970年代になると,DNAの塩基配列そのものを調べることができるようになりました。これらのいわゆる「分子データ」を用いて進化を研究する分野が,「分子進化学」です。
一方,現代遺伝学は,メンデルの遺伝法則が1900年に再発見されたことを契機として始まり,20世紀に大きく進展しました。親から子に伝わる遺伝子の物質的本体がDNAだと解明されたのは1940年代で,その後1953年にはDNAの構造が二重らせんだということがわかりました。しかしそれ以前,すでに1920年代には,遺伝子が細胞核の染色体の中にあることが解明され,染色体を光学顕微鏡で観察する研究が行なわれました。そのような時代に誕生した言葉が「ゲノム」(genome)です。ドイツの植物学者,ハンス・ヴィンクラーの造語です。同時代に,日本でも木原均らが,いろいろな種類の小麦の染色体を比較して,「ゲノム解析」という手法を確立しました。このように,ゲノムの研究は20世紀の中頃までは,顕微鏡を用いて染色体の形態を比較することが中心でしたが,やがて上記のような分子レベルの研究が始まり,1980年代には,ゲノムの全塩基配列を決定できる時代になりました。これら分子進化研究の分野とゲノム研究の分野が合体したのが,「進化ゲノム学」(Evolutionary Genomics)です。
[文責:斎藤成也]